『ラーゲリより愛をこめて』のすすめ

本・映画

今回は2022年12月に公開された日本映画の『ラーゲリより愛を込めて』のおすすめをさせていただきます。

このお話は実話をもとに描かれたノンフィクション映画とのことです。

この映画を見ると戦争自体ではなく、「敗戦」することでまつ過酷な現状を垣間見ることができます。そしてその中での感動的なお話も。

基本的にはネタバレを含まないようにしますが、個人的感想ではネタバレを含んでいるのでまだ見ていない方は見ないでください。

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あらすじ

1945年満鉄調査部に勤める山本幡男は妻と子供4人と中国で暮らしていました。しかし、第二次世界大戦終盤でロシアからの攻撃を受け日本は降伏。山本はロシアの攻撃時に家族を逃がしますが、自分は捕虜として捕まってしまいます。

山本達捕虜はロシアのシベリアの果てにあるスベルドロフスク収容所に連行され、そこで過酷な労働を強いられます。零下20度以下での労働を強いられ倒れていく日本兵たち。ただただ、故郷へのダモイ(帰国)を願ってすごす日々。

そしていよいよダモイとなり電車で移送されている中、電車は止まってしまいます。ダモイするひとと別の収容所で働かされる人に別れるために。そして・・・。

タイトルの意味

ラーゲリというのは収容所のことです。

つまり簡単に言えば「収容所から愛を込めて」と直訳(?)されます。

では「愛をこめて」とは何なのか。

これは主人公の山本が家族にあてた『手紙』になります。

『手紙』の内容はネタバレのところで記載をします。

主要キャラ

今回の映画のキーパーソンとなるキャラを紹介させていただきます。

山本幡男 :二宮和也

本作の主人公。

ロシア文学に通じロシア語を学んでいた人物。

そのため捕虜になった時に通訳として雇用されるが、元上官に目をつけられてしまう。

ラーゲリでは皆を励ましリーダー的な立ち位置になることが多い印象。

しかし、だからこそロシア側からも目をつけられ罰をうけることが多く描かれています。

山本モジミ:北川景子

元々は教師でした。

山本幡男と4人の子供と一緒に中国のハルビンに移住。そこでロシア側の攻撃を受けます。

夫が負傷して動けない中子供を4人連れてなんとか日本へ帰国。その後は再度教師として職を得ながら夫・幡男をまちます。

松田研三 :松坂桃李

スベルドロフスク収容所に一緒に収監された日本兵。

はじめのうち語り部としての役割もありましたが、後半は特にありませんでした。

戦友を戦場で亡くした過去があり卑怯者として自己嫌悪していましたが、山本と出会い少し変わっていきます。しかし、あることがきっかけでまた卑怯者に戻ってしまいます。

新谷武雄 :中島健人

クロという犬とともに登場した青年。

彼のおかげで一度は心がくじかれた山本の心が

実は兵士ではなく漁師の子。漁をしていたらロシアにつかまってしまったという不運の子です。

学校にもいっておらず、山本に字や俳句を教わります。

相沢光男 :桐谷健太

日本軍の中では軍曹という位置にいる日本兵。

山本とははじめ敵対するかたちでしたが、徐々に心をひらいていきますが。

捕虜として捕まる前に結婚をしており、妻とお腹の中に子供がいました。その二人に会うという目標をもってラーゲリを生き抜こうとしていました。

原 幸彦 :安田 顕

捕虜として捕まる前から山本とは知り合いでありハルビンでは上官でした。元々故郷が一緒であり慶応大学4番を務めていたようです。

実は山本をソ連側に売ったのが原でした。そのせいでスベルドロフスク収容所からまっすぐにダモイできませんでした。

個人的感想

ここからは盛大にネタバレがあるためまだ見てない人は読まないでください。

この作品がノンフィクションについて

この作品は『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』という辺見じゅんさんが原作の小説をもとにした映画となります。

後程かきますが、遺書を分担して山本の妻モジミに届けるということが本当にあったのかと思うとすごいものです。

最終的にはダモイができて妻にあえるというハッピーエンドを想像してしまいますが、そこは史実、そう甘い現実はないということを突きつけられてしまいます。

ラーゲリでの息抜き

ハバロフスク収容所ではスベルドロフスク収容所とはうってかわり将棋や囲碁、野球などの娯楽をして遊ぶ人たちが描かれています。

スベルドロフスクでも実はあったのかもしれませんが、時代の流れで娯楽が寛容になったのか。

ところで将棋の駒とかどうやって作ったのかなという疑問も・・・。

会いたかった人と会えなくなる悲しみ

作中では松田と相沢の家族が亡くなったことが手紙からわかるシーンがありました。

戦争では亡くなってしまう人がでてくるのは当たり前です。

松田の母はなぜなくなったのかがわかりませんでしたが、相沢の妻は空襲でなくなったと説明がありました。おなかにいた子ももちろん・・・。

そして、山本もまた自身が癌で余命3カ月といわれ家族に会えなくなる現実を突きつけられてしまいます。

この作品では戦争自体が描かれませんが、戦争の悲惨さがわかるシーンです。自分は勿論戦争を経験はしていないですが、それでも戦争は二度と起こってほしくないと思わされます。

そして、癌という病気の、特に末期がんの苦しさもほんのわずかに垣間見ることができる作品です。

しいて言えば、二宮くんの歯が常にきれいなのがね、うん、気になります。あんなに血を吐いているのに・・。

松田の決意

「俺は卑怯者をやめる、山本さんのように生きるんだ」

彼はこういい山本のために作業のボイコットを決意します。

そして今まで相沢に「一等兵」といわれても何もいいかえさなかった彼が、

「一等兵じゃない、俺は松田研三だ」

と言い放つシーンがあります。

前の言葉通り山本のように自分を一個人として

それに共鳴し同じ部屋の捕虜たちはともにボイコットを決行します。そこには相沢の姿も。

ここに至るまでの松田の行動を振り返ると劇的な変化となるこのシーン。

人はこれほどまでに変わるのか、そして変えられるのかというのをみるシーンでした。

ノンフィクションの作品とのことですが、ほんとうにそこまで変わったのかはわかりませんが本当であれば山本さんがどれだけ影響力がある人で、どれだけ慕われていたかがわかるシーンでした。

手紙について

山本は癌になり手紙(遺書)を書くことになります。

これは作中では原が山本に進めて書くことになりました。

彼は4通の手紙をかくことになります。それを松田、新谷、相沢、原が分担して暗記をして家族に伝えることになります。

実際には4人ではなく6人が分担していたようです。

ソ連兵によって遺書も没収されてしまったため実際に全文を暗記できたかはわからないようですが、いつ帰れるかわからない状況で来る日も来る日も復唱し記憶し続けていたというのが驚きです。

中には遺書の写しを衣服に隠して身に着けたり、糸を巻き付けて糸巻に偽装してやり過ごしたものもいたようです。もしばれれば刑が延長することがあるためその覚悟は並々ならぬものを感じます。

ただ、もっと驚きだったのが、ハバロフスクの収容所に訪れた日本の社会党訪ソ団のメンバーである戸叶里子・衆議院議員に山本の遺書の写しを渡していたということです。

翌日にはモジミにこれを届けているようですが、暗記担当者は戸叶に接触したものがおらず、他の捕虜がわたしていたようです。

原 幸彦の手紙

「山本幡男の遺家族の者たちよ。とうとうハバロフスクの病院の一隅で遺書を書かなければならなくなった。鉛筆をとるのも涙が出ます。どうしてまともに書くことができるだろう。

思ったことの何分の一も書き表せないのが、何より残念です。

ただ一つ、何よりもお願いしたいのは私の死によって決して悲観することなく落胆することなく行き益々旺盛に病気しないよう、けがをしないよう、丈夫に生きながらえてもらいたい。

どうか皆さん幸福に暮らしてください。これこそが私の最大の重要な遺言です。」

原は一番に家族に伝えに来ました。凛とした強さで語る口調が印象的でした。

松田研三の手紙

「お母さま、私は何という親不孝だったでしょう。小さいときからお母さんに・・・、やはりお母さんと呼びましょう。心配をかけ、親不孝を重ねてきた私は、なんという罰当たりでしょう。

どうぞ存分この私を怒って、叱り飛ばしてください。

一目でいいからお母さんに会って死にたかった。

一言。二言かわすだけでどれだけ私は満足したことでしょう。

しかしお母さん、私が亡くなっても、決して涙に溺れることなく生きてください。どうか孫たちの成長のために、もう10年間闘っていただきたいのです。

強く、強く、あくまでも強く。」

松田はこのセリフを自分の亡き母に照らして伝えていきます。

話しながら崩れ落ちていく松田はとても印象的です。

新谷武雄の手紙

「子供らへ。

山本顕一、厚生、誠之、はるか。

君たちに会えずに死ぬことが一番悲しい。成長した姿が見たかった。

私の夢の中には、君たちの姿が多く表れた。それも幼かった日の姿で。

さて、君たちはこれから人生の荒波と闘ってゆくのだが、最後に勝つものは道義であり誠であり、まごころである。

人の世話にはならず、人に対する世話は進んでせよ。無意味な虚勢はよせ、立身出世などどうでもいい。最後にかつものは道義だぞ。

君らが立派に成長してゆくであろうことを思いつつ、私は満足して死んでいく。

健康に幸福に生きてくれ。長生きしておくれ。」

一番幼く演じられていた新谷が子供たちへと遺書を届けるのがいいと思いました。何よりも山本から習った字を使って山本の子供たちに遺書を書き起こして届けるというところが感慨深いところです。

相沢光男の手紙

「妻よ!よくやった。実によくやった。

君はこの10年間、よく辛抱して闘い続けてきた。殊勲賞だ!超人的な仕事だ!

その君を幸福にするために、帰国の日をどれだけ待ち焦がれてきたことか。一目でいい、君に会って胸いっぱい感謝の言葉をかけたかった!君の奮闘をたたえたかった!

しかし、とうとう君と別れる日が来た。これからは幸福な日も来るだろう。どうかそうあってほしい。」

妻を亡くした相沢が、山本の妻へあてた遺書を伝えに行くという演出がまたよかったです。

そして読み終えた後に現れる山本。

4つの遺書が揃い、山本の気持ちが全て家に帰ってきたという演出なのかもしれません。

最後のシーン

「よーく覚えておくんだよ、こうして久しぶりに家族全員でいられること、みんなの笑顔、おいしい食べ物。ハルビンの午後の日差し・・・。」

というシーンで終わります。

正直このシーンがいるかなと最初は思っていましたが、何気ない日常がいつ終わってしまうかわからないものだなとぼんやりと思うようになりました。

いつなにがあるかわからない。だから一つ一つを思い出として残せればいいですね。

さいごに

作品の良さが伝わったかわかりませんがよかったら見てみてください。

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